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[ 歴史・石碑 ]

2023.02.07

地上のビスタライン -ビスタラインを辿るまちあるき-

家康公の菩提寺、大樹寺と、生誕の地岡崎城を結ぶ約3㎞の直線を『ビスタライン』と呼びます。

県指定文化財である大樹寺三門を通して見る総門と、その中に納まる岡崎城の天守が、まるで額縁に納まる絵画のように見える光景が有名です。

いまは条例で守られている、このビスララインの景観。大樹寺から岡崎城までをまっすぐつなぐ、目に見えないこのラインを、市街地からも観測できるポイントがあります。

「地上のビスタライン」と私が勝手に名付けた市街地散策。まるで星座の星を探すような、ゲームのクエストをするような楽しさをお届けします。

ビスタライン(大樹寺から岡崎城を望む歴史的眺望) 岡崎市ホームページ

ビスタラインの成り立ち

ビスタラインの成り立ち

岡崎市が誇る、徳川将軍家の菩提寺、大樹寺。寛永18年(1641)、江戸幕府三代将軍・徳川家光は、敬愛する祖父・家康公の17回忌に合わせて、大樹寺伽藍を幕府普請で建て直されました。
この際に、『家康公の魂が、生誕の地・岡崎城を眺められるように』と、普段なら、本堂の真南に配置するはずの三門と総門を、少し西向きにずらし、岡崎城天守と本堂を結ぶ直線状に配置しました。
三門から総門を通して見える岡崎城、という光景は、380年前に作られた、徳川将軍の祈りの道です。

さて、時代は流れ、近代になっても、「大樹寺と岡崎城の間を隔ててはならない」という住人の配慮で守られてきたこの光景を、永続的に守るために、岡崎市の条例が発布されました。
この条例は、ビスタラインに相当する地域に、距離に応じて建築物の高さを制限するもので、地権者が配慮なく高層建築物を建てることを防ぐものです。

この条例に際して、ビスタラインを横切る道路の両端(狭い道は片方)に、ビスタライン鋲という基準点が埋め込まれました。この目印から距離を測ることで、規制されているエリア図面上でなく現地で把握できます。

92個のビスタライン鋲

92個のビスタライン鋲

(写真はビスタライン鋲v92)

大樹寺から岡崎城の間は、住宅地を中心とした市街地ですが、その上空をビスタラインが通っていることは、ほぼ意識できません。ですが、この鋲を辿っていくことで、地上にいながら、岡崎城と大樹寺を結ぶ目に見えないラインを再現することができるのです。

ビスタライン鋲の数は、実に92個。1番は大樹寺の三門前、2番は大樹寺小学校の校門前に。
そして92番は、岡崎公園に接する、国道一号線の歩道、家康館から北に降りた歩道の端に設置されています。植え込みに隠れて探しにくくもありますが、写真を参考にしながら探してみてください。ちょっとした宝探し気分になれます。

また、ビスタライン鋲は500円玉程度の大きさ。アップで撮るとどれも同じに見えますし、引いて撮影するとほとんど見えません。
今回の写真のように、人物が指さしたり立ったりすると、位置も分かりやすく、思い出に残るので、おすすめです。
今回は『歴史探偵®︎さかもとさん』にモデルになっていただきました。

今回の楽しいモデルさん、『歴史探偵®︎さかもとさん』はこちらです!

りぶらとお城通り

りぶらとお城通り

(写真は岡崎康生通西郵便局の近く

2番は一号線を渡って、岡崎康生通西郵便局のすこし東。
リーガルシューズ岡崎展の店長尾崎さんが、2021年年末に始めた「ちょいモテおやじの厳選屋」は、ここからすぐ近く。
コーヒーとフランクフルトは絶品と評判です。

コーヒーで一息入れた後、細かい道の両端に設置された鋲をひとつひとつ巡っていくと、『岡崎市図書館交流センターりぶら』の前に到着します。

厳選屋で”ちょいモテおやじ”になる!?

大林寺

大林寺

(写真は、りぶら3階から眺めた「お城通り」)
岡崎市と図書館交流センターりぶらの3階に上がり、吹き抜け部分から2階の通路を見渡すと、南北の通路がすこし斜めなのがわかります。
「お城通り」と名付けられたこの通路こそ、『りぶら』の上空を通るビスタラインの位置をそっくりそのまま通路として、地上に視覚化したものなのです。この通路を歩くだけで私たちはビスタラインの下を歩くという不思議な体験ができます。
ビスタライン上をまっすぐ歩くことができる場所は、大樹寺の総門からの元参道、井田公園のグラウンド、岡崎公園、そしてこのりぶらの通路。ある意味パワースポットのような場所です。

ビスタラインが上空を通過するため、それを遮ることのないように、りぶらは地上2階建てという低層の建物となりました。
岡崎城天守の展望台からりぶらの屋上を見ると、発電用のソーラーパネルがちょうどビスタラインをなぞるように配置されています。このソーラーパネルのラインから視線を延長すれば、はるか3km先の大樹寺の総門にたどり着く格好の観測スポットです。

大林寺から市街地を歩く

大林寺から市街地を歩く

りぶらを出ると、大林寺の石垣と本堂が目に入ります。ここは岡崎城主たちの墓所として、岡崎城を築城した西郷頼嗣や、家康公の祖父清康、父広忠たちの墓があります。
大樹寺の家康公の魂が岡崎城を眺める、その視線であるビスタラインの線上に、祖父や父の墓所がある大林寺があるのは、意図されたことか偶然か。美しい切り込み接ぎの石垣を見ながら考えてしまいます。

ビスタラインは住宅街の上を通過していきます。車1台通るのがやっと、というくらいの細い道にも、ひとつ、もしくは両端に鋲が設置されています。
上空を直線で通っているビスタラインは3㎞ですが、屋根の上を通れない徒歩の私たちは、ジグザグに行ったり来たりしながら進むことになり、実際歩く距離は数倍になります。なので、無理しない範囲で。
普段通らない路地裏を、小さな鋲を探して進むのは、ちょっとした探検気分。
鋲の前に建つ、絵本の専門店『ちいさいおうち』さんや、『城北飯店』さんの綺麗なプランターなど、意外な出会いや素敵な景色を楽しめます。

大林寺(松平清康、広忠、清康夫人春姫の墓)

平八稲荷

平八稲荷

(写真はビスタライン鋲v80)

ぽけろーかるエリアの北端に近いところにある鋲は、『平八稲荷神社』の西側になります。


お稲荷さんと言えば、豊川稲荷が有名ですが、もともと豊川でも古い稲荷社だった西島稲荷の社守だった平八という翁が、豊川稲荷の社守に移ったところ、そちらの方が栄えたという伝承があります。この平八翁、実は狐の化身で、浜松にはこの平八翁の出身である『平八稲荷』があるそうです。
能見町にあるこの平八稲荷神社の創建は明らかではないのですが、おそらく、どちらかの平八翁に関連する稲荷社から勧請されたものなのでしょう。春には桜が綺麗なお社です。

79,80番は、この平八稲荷から西に入っていった細い道の両側。徒歩ならではの散策です。

ビスタラインを歩いてみて

ビスタラインを歩いてみて

こうして、ビスタラインの下を実際に歩いてみると、民家や商業地がとても多いのを実感します。これだけの住宅密集地に、ビルやマンションなど、景観を遮る高い建物が建てられることなく、住人の配慮でいままで守られてきたことは奇跡のようです。

大樹寺の三門前から岡崎公園まで、鋲の数は92。ここに記しきれないその他の鋲の位置は、岡崎市が公開している「岡崎市わが街ガイド」から閲覧することができます。


三代将軍家光が、祖父への想いを表したひとすじの見えない線。岡崎城から、大樹寺から、まちなかから。ビスタラインを意識することで、いままで見えなかったこと、感じなかったことも見えて来る気がするのです。

岡崎市わが街ガイド

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